建築・まちづくりで事業者に必要な2つのマネジメント視点
2025/03/31

建築・まちづくりのプロジェクトにおいて、事業者にはどういった視点が必要なのでしょうか?
建築・まちづくりのプロセスは事業の特性や固有性によって様々ですが、どんなプロジェクトでも事業者側が必ず持っておくべきマネジメントの視点が2つあります。それは「建築・まちづくりの専門領域に関する戦略的なマネジメントの視点」と「意思決定のマネジメントの視点」です。
建築・まちづくりの専門領域に関する戦略的なマネジメントの視点
建物を建てたいから”建物を建てる会社”に相談する。これは間違いではありませんが、発注者と受注者が利益相反する場合がある点と、発注者しかできないことがある点は考慮する必要があります。
「建物を建てる」というのは実はひとつのプロセスではなく、企画・基本計画・発注・基本設計・実施設計・工事・検査と、複数のプロセスの組合せで成り立っています。また、このプロセスごとに行政協議、品質確認、金額調整、契約といった手続きが関わります。さらに、「建物を使う」となると「建物を建てる」というプロセスに運営準備や家具備品設置、場合によってはテナントや入居者の工事が追加されます。
これらのプロセスには「誰が主体者となるか?」が決まっているものがあります。例えば、設計は設計者、工事は施工者、これは「建築士法」や「建設業法」といった法律で、資格が無いとできない業務に定められています。このため建築事業は、企画から運営開始までの大きなプロジェクトの中に、設計や施工といった複数のプロジェクトが内包されていて、しかもその主体者がバトンタッチする、ということが必ず起こります。
一方で、設計や施工以外のプロセスの主体者は決まっておらず「これが正しい」とか「こういうものだ」といったことはありません。設計事務所やゼネコンによっては「設計や工事以外の部分もお手伝いします」というサービスがありますが、これらはあくまで発注者が選定していることになります。
このように、建築プロジェクトでは「法律で決まっている主体者」と「法律で決まっていない主体者」がいるということを知らずに「建築は設計者がいるから、設計者にお願いすれば問題ないだろう」「有名な建設会社にお願いすれば全部やってくれそうだ」という思い込みで発注先を決めると、発注者がよりよい条件にできたかもしれないことに気付かないままプロジェクトを進めてしまうことになります。
建築事業を成功させるためにプロジェクトを組み立て進めるのは発注者の役割であり、同時にプロジェクトの最適化に向けた選択の責任を持っているのは発注者となります。設計者、施工者、その他の受注者はそれぞれが請け負ったプロセスの中のみに責任を負います。そのため、事業全体について責任を持っているのは、あくまで発注者となります。
つまり、技術的な専門性は専門の会社に任せるとしても、事業やプロジェクトにとって最適な選択を行うのは発注者の仕事なので、専門領域に関するものだとしても、戦略的なマネジメントは発注者側で行う必要があります。
意思決定のマネジメント
建築プロジェクトのどのフェーズにおいても事業者の最も重要な仕事は「判断」です。例えば、プロジェクトの初期では以下のことについて判断を行う必要があります。
・何を目的とするか?(要求事項の提示)
・どんなものをお願いするか?(要件定義の承認)
・いつ誰にお願いするか?(発注方針の設定)
・お願いするときの約束事や取り決めは?(発注・契約条件の設定)
またプロジェクトが進めば、設計者や施工者の提案を承認する必要があります。事業者の判断無しでプロジェクトが進むことはありませんので、判断した責任だけでなく、判断できなかったことによって起こることへの責任も事業者が持つことになります。
建築・まちづくりの事業に慣れている事業者は判断するための知識や経験を持っていますが、ほとんどの事業者は建築・まちづくりに関する知識や経験が無いのでアドバイスを受けるか、自ら考えて判断する必要があります。ただし、アドバイスを受けたとしても、最終判断の責任は事業者にあります。
知識はその時々に必要な「引出し」から出して使うストックのようなものですが、最適な判断には全体像を俯瞰した総合的な視点が欠かせません。また、全体像が見えない中でその先のプロセスにどういう影響があるかを考慮しながら判断できるか、そう考えると専門知識の引出しだけではなくプロジェクトそのものを見通す視点が必要となるのです。
発注者が必ずしなければいけないのは判断、判断には責任が伴う、責任ある判断のためには局所的な専門知識だけでなく全体像への理解も必要。これは建築・まちづくりに限らない事業の成功に不可欠な視点です。
専門性と総合性の両立
今回ご紹介した2つの視点は、一言で言うとスペシャリストの視点とジェネラリストの視点とも言えます。実は建築・まちづくりのプロジェクトはこの2つのバランスがとても大事です。どちらかに偏っていても上手くいきません。両方の視点を確保することが、事業とプロジェクトの成功につながります。私たちが提供する「最良のプロセスをデザインする」の根幹にもこの考え方があります。
REI SUPER MANAGERS
吉見周平