「何をどうつくるか?」のプロセスを制することがプロジェクトの成功のカギ:「中流工程」の台頭で求められる建築プロジェクトマネジメントの重要性
2025/05/20

従来のプロジェクトを構成する「上流工程」と「下流工程」
今、プロジェクトマネジメントができる人材は、どの業界でも貴重になっています。これは、世の中全体でプロジェクトの複雑性が増しており、専門的なスキルがなければ円滑に進めることが難しくなっているためです。もはや、これまでのように見様見真似で対応できる段階を超えつつあるのかもしれません。
建築に限らず、一般的にプロジェクトは大きく「上流工程」と「下流工程」に分けられます。「上流工程」は「何をつくるか?」がテーマとしたプロジェクトの前半部分であり、一方の「下流工程」とは「どうつくるか?」がテーマとするプロジェクトの後半部分です。
これまでの建築プロジェクトでは、ウォーターフォール(計画駆動型)の「下流工程」を中心に、全体のプロセスが体系化されていました。そのため、案件ごとに違いがあっても共通することも多く、個人や組織に経験や知見が蓄積されることで、再現性を担保することができました。
これは同時に「下流工程」から逆算することで「上流工程」で決めるべきことも、ある程度は定型化できていた、ということを意味します。つまり「顧客がどんなものを望んでおり、それを実現するためにはどのような仕様にすればよいか(要件定義)」といった項目が、プロジェクトの開始時点である程度見通せていたということです。
しかし、プロジェクトの固有性と不確実性が高まる中で、「上流工程」の見通しは容易には立たなくなっています。つまり答えが見えない暗中模索の状態に陥りやすくなっているということです。社会の価値観や流れが変わり「事業として何をつくればいいのか」が揺らいでおり、新しい技術開発によってできることも変わってしまうからです。こうした変化は建築に限らずあらゆる分野で起きています。
「中流工程」の出現とマネジメントの課題
本来、「何をつくるか?」という「上流工程」は、一つのプロセスが完了してから、次に進む”玉突き型”で進行し、その後に「どうつくるか?」という「下流工程」が始まる流れでした。しかし現在は、「上流工程」の決定が後ろにずれ込んで「どうつくるか?」という「下流工程」と並行して進めざるを得ない状況となっています。その結果「何をどうつくるか?」を同時に考えながら進める、いわば「中流工程」のような新たなプロセスが発生しています。
この「中流工程」を的確にマネジメントする知見や経験が建築プロジェクトには十分に蓄積されていません。ITやプロダクト開発では、「何をどうつくるか?」というテーマに対応する手法としてアジャイルというアプローチが用いられることがあります。しかしながら、アジャイルは短期間で小規模なプロジェクトで素早く成果を出すことに適しているため、長期間で大規模な建築プロジェクトにそのまま適用するのは難しいのが実情です。
アジャイルの応用と発注者・受注者の関係性をどう再構築するか
アジャイルをそのまま適用することが難しい一方、アジャイルの持つ要素を応用することはできます。例えば、「検証をサイクル化する」「具体的なアウトプットに対するレビューと改善を重ねる」「尊重と透明性を確保し対立ではなく対話を通じて成果に向かう」など、これらの要素は、従来の建築プロジェクトになかった「中流工程」において今後かかせないものとなるはずです。
こうした取り組みを実現するためには「お金を払う発注者」と「仕事をいただく受注者」といった従来の構図を根本的に見直す必要があります。これは単にモラルや市況の問題だけではなく、プロジェクトマネジメントの視点から、対等な関係性を前提とするしくみを構築することです。
ビジネスの関係として、発注者と受注者の立場が変わることはありません。しかし、例えば「検討段階の資料なのに完璧な状態でないと受け取らない」「お客様に出せない」といったマインドは、まだ「何をつくるか?」が決まっていない段階ではリソースの浪費に繋がります。一方で、「お客様からのオーダーがはっきりしないので検討はしない」といったスタンスも、発注者側に対して無理に条件の精度を求めることになり、結果的に時間の効率が著しく低下します。
「何をどうつくるか?」を成功させるためには、建築プロジェクトではこれまであまり重視されてこなかった領域として、たとえば「体制づくり」「チーム運営」「フラットなコミュニケーションの具体的手段」「会議サイクルの最適化」など、プロジェクト運営の重要性がこれまで以上に高まっています。
こうした背景を受けて、建築の専門的な領域にとどまらず、プロジェクトを円滑に進めるためのご相談をいただく機会が増えています。
REI SUPER MANAGERS
吉見周平